今回のドイツ総選挙で第一党となった中道左派SPD(党のカラ-:赤)に加えて、環境重視のGreen(緑)と経済重視のFDP(黄)の3党による、信号機連立政権樹立に向けた、本格的予備交渉が始まりました。
目指す方向性がかなり異なる3党による連立を目指すわけですから、大変難しい交渉となる(時間もかかる)ことが確実視されていますが、ドイツを新たな時代にフィットする強い国にするため、これまで踏み切れなかった大胆な措置に打って出ようという思いは3党間で共有しています。
これから誕生するドイツ新政権が、地球温暖化対策、経済構造改革、社会的分配、デジタル化対応において、これまでとどのように違う政策が繰り出されてくるのかは、日本だけでなく他の多くの国にとっても興味深いところです。
実際の予備交渉の中でどのような議論がなされているのか(ましてや、最終的にどのようなところで妥結しそうか)については、現時点では全く漏れ聞こえてきませんが、ドイツ主要メディアで紹介されている主な争点や、妥協に向けての大まかな方向性について以下ご紹介しておきます。
- 税制
SPDとGreenは、所得の多い企業や個人への更なる増税(による社会的再分配強化)を目指す。一方、FDPは全般的な減税による経済活性化(分配の前に成長)を主張するが、減税の代わりに加速償却で妥協する可能性あり。ただし新たな資産課税には反対。 - 債務上限
ドイツ基本法に、新規債券発行額はGDPの0.35%以内と決められているが、自然災害などの「異例な緊急事態」の際はこの上限を超えることが許されている。この債務上限について、GreenとSPDの一部が柔軟な運用、FDPは厳格運用を主張し、激しく対立している。
気候変動対策やインフラ整備で今後必要となる巨額投資資金(年500億ユーロ規模)については、債務上限に影響を与えない特別基金の活用で妥協する可能性大。 - 財務相ポスト
首相の次に大きな権限を持つドイツ財務相ポストには、FDP党首リントナー氏の就任が有力視されているが、信号機連立政権で副首相となることが有力視されているGreen共同党首のハーベック氏に割り当てられる可能性もある。 - 気候変動
Greenにとって最重要分野。SPDと共に、大胆な規制や公的投資、補助金などの導入によって今までと異なる大きな前進を実現したい。一方、FDPは排出権取引やCO2税を中心とした市場原理とイノベーションによる対策推進(経済界配慮)を主張。 - 脱石炭
Greenは脱石炭期限を現行の2038年から2030年に前倒ししたいが、FDPはまったく現実的でないとして反対。 - 年金
SPDとGreenは税金を投入してでも一定水準の年金支給を維持したい意向ながら、FDPは市場運用強化による年金充実を志向。
今回の選挙でGreen、FDPとも若者の支持を大きく伸ばしたことから、若者世代に負担を先送りするような妥結は避けたい。 - 高騰する家賃対策
SPDとGreenは家賃上昇抑制のために何らかの規制(家賃上限など)を導入したい意向だが、FDPは絶対反対で住宅関連減税等による供給促進策で対応する方針。
FDPは実際にエネルギーを消費している賃借人がCO2税を全て負担とすべきとの考え方ながら、ベース部分を大家負担とすることは許容する見込み。 - 健康保険
SPDとGreenは現在の公的、私的健康保険の一本化をめざしているが、FDPは両社間の競争激化を促すことで格差解消を図りたい。税金投入による格差是正が妥結店になる可能性あり。 - アウトバーン(高速道路)の速度制限
Greenは「CO2を減らせる上に重大な交通事故が減らせる」として導入を主張するが、FDPは反対。 - 更なる道路整備
SPDとFDPは必要なインフラ投資と見做しているが、車自体を減らしたいGreenは反対。 - ドイツ鉄道改革
GreenとFDPは賛成だが、SPDは鉄道労組に配慮して反対。鉄道インフラの老朽化が激しいため、600億EUR規模の投資が必要とされているが、これをどうするかも焦点。 - 未来の自動車
GreenとSPDは電気自動車に絞りたいが、FDPは水素やグリーンな合成燃料も認めたい意向。 - デジタル化
高速インターネット回線へのアクセスを貧しい人々にどうやって提供するかで対立(Greenは全市民の当然の権利としたい一方、FDPは市場原理重視)。ただし提供するという方向性では一致しており、デジタル化をやり過ぎるということもないので、妥協は成立しやすそう。