日独経済日記

日独間の架け橋となることを目指しています

20211217 米英主導の金利正常化局面におけるECB

今回の注目のECB理事会の決定内容は、一般市民にもビジュアルでわかりやすく伝わるよう、ECBのWEBサイトでこちらのようにまとめられています。

Our monetary policy statement at a glance - December 2021 (europa.eu)

 

中学生向けくらいの説明を意識したかのような噛み砕きようで、ちょっとほっこりすらさせられます。

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今回の理事会で最も重要なポイントを大胆にまとめると、以下のような感じでしょうか。

  • 今年、来年とインフレはやや高止まる(各2.6%/3.2%)ものの、
  • 2023年以降にはECB目標としている2%ちょい下に収まる見込みなので
  • (米英みたいに)金融引き締めを急いではいけない
    来年の利上げは引き続き「very unlikely」

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来年のインフレ予想が、9月時点の1.7%から今回の3.2%に大きく上昇している(ECBが完全に読み間違えている)ことを記者会見の中でドイツメディア(ARD)が追及していましたが、ラガルド総裁は、2/3が予想外のエネルギー価格急騰、残りが予想外のサプライサイド障害によるものとして、ECBの読み間違いでも責任でもないという感じで完全に開き直っていました。

 

 

一般市民にはなじみの薄い、資産買入ペースの減速については、下図のような感じで縮小に動いてはいるわけなので、ECBがインフレに対して何もしていないわけではありません。

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しかしドイツの一般市民は、
「自らの失政で2年間にもわたってインフレがターゲットの2%を大きく超過しているのに、さらに来年1年間何もしないつもりとは何事だ」
「ドイツマルク/ドイツ連銀が通貨の番人だった時代にはこんなことは全く起こり得なかった」
「ドイツ連銀総裁(バイトマン)の抗議辞任を無駄にするな」
という気持ちになっています。

ラガルドECB総裁は「マダム・インフレーション」と呼ばれています。

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ECB、従来の資産購入プログラム増額へ-PEPPは3月で終了 - Bloomberg

 

 

ドイツ第2公共TV(日本のNHKに相当)では、ECBを露骨に批判することは避けていますが、タイトルを「高インフレにもかかわらず政策金利ゼロで据え置き」としたり、「(今回来春の終了が決まった)PEPPがユーロ圏のインフレ上振れを助長した」と付記したりして、ドイツ一般市民に対して、ECBへの不満をにじませるような伝え方をしています。

Trotz hoher Inflation: EZB belässt Leitzins bei null Prozent - ZDFheute

 

 

ちなみに最近(12/14)ifo研から直近経済予測が発表され、来年のインフレ予測はECBと同じ3.2%(ドイツは3.3%)となっています。


①ifoの今回の経済予測

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ifo Konjunkturprognose Winter 2021: Lieferengpässe und Coronawelle bremsen deutsche Wirtschaft aus | Fakten | ifo Institut

 

②ECBの今回のスタッフプロジェクション
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Eurosystem staff macroeconomic projections for the euro area, December 2021 (europa.eu)

 

 

市場価格と違って政策金利は中銀が自分の意志で決められるものであり、だからこそよく(中銀の影響力が強く及ぶところで)「中銀には逆らうな」と言われます。

現時点ではラガルド総裁が「2022年は(まず)利上げなし」と明言し続けているので、市場の利上げ予想は2023年以降というものがほとんどになっています。これに反するような予想に基づいて今から行動するのは得策ではありません。

ECBが2022年に利上げする可能性は極めて低い-ラガルド総裁 - Bloomberg

 

しかし、米英中銀が利上げ/金利正常化を淡々と続けて(やるべきことをやっている感じを出して)いる中、自分の庭先のインフレが目標を大きく上回っている状態のまま来年1年間利上げを選択肢から排除し続けるということはそんなに簡単なことではないように思います。

あくまで私見ですが、

①既に十分高い予測を実際のインフレがオーバーシュートする可能性の高まり

FRBの資産圧縮(runoff)の議論の本格化

の二つが、来年前半あたりにECBの雰囲気を変えるきっかけになるような気がしています。