日独経済日記

日独間の架け橋となることを目指しています

20220213 ショルツ首相はなぜノルトストリーム2廃止を明言できないのか

ロシア軍は、ベラルーシやクリミア近傍でこのような大規模軍事演習を遂行中ですが、いよいよ来週にもロシア軍のウクライナ侵攻(まずはミサイル攻撃と空爆)が始まるという報道がドイツでもトップニュースになっています。

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ドイツ外務省はウクライナ在住のドイツ人に対して「真に必要な滞在でない限りただちに国外に退避してください」と呼びかけています。

 

ドイツ最大の全国紙であるビルト紙(日曜版)も「いよいよ欧州での戦争(KRIEG)が間近に迫っている」とセンセーショナルな表紙になっています。

(本来はサッカーブンデスリーガトップ独走中のバイエルンミュンヘンが11位のボーフムに完敗したこと(上中央の小さな写真)がトップだったはずでしょう)

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ショルツ首相は先日の訪米においても、独露間のガスパイプライン「ノルトシュトリーム2(現在認可待ち状態)の廃止」に一切言及しなかったので、米国だけでなく欧州の同盟諸国からも大きな失望を買いました。

 

ドイツの主要メディアの報道を見る限り、ショルツ首相が明言を避けている主因は以下2点に絞られるようです:

  1. 制裁に使われる項目や優先順位を敢えて不透明なままにしておくことにより、プーチン大統領が軍事行動に踏み切った場合のコストを計算できない(大きく見せる)ようにしておく(「戦略的あいまいさ」のキープ)。
  2. シュレーダー元首相を筆頭に、SPDが党を挙げて積極的に推進してきたという負い目はともかく、少なくとも形式的に)ノルトシュトリーム2は純粋な民間プロジェクトであり、廃止に追い込むための法的根拠が全くない(基本的価値観である「法の支配」から逸脱してしまう)。

 

ちなみに、ウクライナは高性能なドイツの武器供与による支援を熱望しているのですが、「紛争地域に武器は渡さない/売らない」という(過去の歴史に対する反省に基づく)理念/大原則があるため、ヘルメットくらいしか送ってあげられないということになっており、これまた大きな失望を買っています。

 

来週ショルツ首相はこの非常にクリティカルなタイミングでキエフウクライナ)とモスクワ(ロシア)を歴訪することになっていますが、誰がやっても成果を上げることが難しい訪問にもかかわらず、さらなる失望を買ってしまうという可能性が高まっています。

 

ショルツ首相の人気度やSPDの政党別支持率は最近顕著に低下しています。プーチン大統領からの個人的な信頼が厚く、ロシア語でも直談判できたメルケル前首相との対比でショルツ首相が物足りないと思われてしまっている部分もあるでしょう。ただし、ノルトシュトリーム2を推進(というより黙認)してきたという意味ではメルケル氏も同罪であり、ショルツ首相だけが批判され、失望の対象とされてしまうのはちょっと気の毒な気がします。いずれにせよ、メルケル氏は絶妙のタイミングで(惜しまれつつ、うまいこと)足抜けしたということになります。