日独経済日記

日独間の架け橋となることを目指しています

20220530 ドイツでも賃金・物価スパイラル不可避の情勢

今朝、ドイツ連邦統計局から発表された2022年1-3月期賃金統計によると、

  • 名目賃金(青線)は前年同期比+4.0%と高水準を維持したものの、
  • インフレ(黒線)が+5.8%と大きく上昇したため、
  • 実質賃金(赤線)は▲1.8%と大きなマイナスに転じていました。

この状況は、足元の第2四半期にはさらに悪化しているものと思われます。

コロナ前まで、上記グラフの赤線がほとんどマイナスになることがなかったことから判るように、ドイツの賃金はインフレをやや上回って伸び続けるというのが半ば当然となっています。コロナ以降、何度も深いマイナスに転じて賃金が実質的に目減りしていますが、これは大変珍しいことです。

 

このような状況下で、ドイツの労組が黙っているわけはありません。7月半ばに正式な賃上げ要求を発表することになっていますが、インフレ率を大きく上回る強気の要求を掲げてくることはほぼ間違いありません(直近では鉄鋼業界で年+8.2%の賃上げ要求を掲げ、交渉は難航しています)。

Forderungsdebatte startet - Deine Meinung ist gefragt! (igmetall.de)

 

本日午後、同じく統計局から5月の消費者物価速報が発表され、前月比+0.9%/前年比+7.9%(ユーロ圏共通のHICPベースだと+1.1%/+8.7%)と再び市場予想(+7.6%)を上回りました。この+7.9%というのは、1973年以来、すなわちほぼ半世紀ぶりの水準であり、ほとんどの人が経験したことのないものということになります。景気が悪化して失業率が上がるような状況からはまだかけ離れていますが、低所得者層を生活苦に追い込むには十分なインフレとなっています。

Inflationsrate im Mai 2022 voraussichtlich +7,9 % - Statistisches Bundesamt (destatis.de)

 

Germany Inflation Rate - April 2022 Data - 1950-2021 Historical - May Forecast (tradingeconomics.com)

 

中央銀行(ECB)の政策金利は、ヘッドラインのREFIで0%、金利レンジの下限となる中銀預金金利が▲0.5%のままでずっと据え置かれています。実際に利上げに動くのは早くて7月(1か月以上も先)ということですから、政策としては完全に読み間違い/後追い、となっています。

EURの購買力がこれほど棄損しているなら、為替市場でもトルコリラの次くらいに暴落していてもおかしくないくらいのはずなのですが、EUR/USD相場は「せいぜい金利差分軟調」という程度で勘弁されています。

 

一方、購買力の維持という面では破格に好成績であるはずのJPYに対して、EURはむしろ強含みで推移しています。

EURは意外に国際メジャー通貨として信頼が厚い(プレミアムを享受できる立場にある)ということなのかもしれません。