日独経済日記

日独間の架け橋となることを目指しています

20221108 ドイツ経済の展望と日系企業へのインプリケーション

(お恥ずかしい限りですが、本稿内容をYouTubeにもしてみました。よろしければこちらをご覧ください https://youtu.be/qVe59W76ujU)

 

今回は日系企業に対するインプリケーションという観点からドイツ経済を分析してみようと思います。

ドイツ経済について日本語で解説してあるものを探しても実は意外と見当たりません。
ドイツと関係の深いビジネスを展開していらっしゃる皆さまは、結構お困りなのではないかと思います。

日独間の架け橋をめざす当ブログでは、そんな皆様のために、ドイツ経済の節目節目で状況を分析してその結果をお伝えすることにより、皆様の経営戦略策定やリスク管理に少しでもお役に立てればと思っております。

 

ドイツ、アメリカ、中国、日本の規模感を比較するとこんな感じになります。
ドイツを一言で表現すると、GDP世界4位で日本に次ぐ経済大国、人口は日本の3/2ながらGDPと国土面積は日本とほぼ同規模、ということになろうかと思います。

ちなみにユーロ圏の中でドイツは当然ながら最大の国で、現時点でのウェートはGDP統計では29%、インフレ指標であるHICP統計では28%となっています。

 


②次に10月に発表された直近のIMF世界経済見通しの中長期経済予測を確認しておきます。


実質GDP来年▲0.3%とわずかながらマイナス成長に陥りますが、その後は+1.5%、+2.2%、+1.8%と比較的強めの推移となる見込みです。

コロナ後のドイツ経済の潜在成長率は、1%を少し下回る程度と推計されていますので、来年のマイルドなリセッションをこなした後は、潜在ペースを上回る成長が当面続くということになります。

 


インフレについては、今年+8.5%、来年+7.5%と異常な高さに到達した後、さすがに発射台が高いのでその後は低下に向かうという予想になっています。ただしECBのターゲットである2%に収まるのは4年後の2026年となる見込みです。

 

 

③足元のGDPの実績推移についてのドイツ連邦統計局のデータがこちらです。


第3四半期は前期比+0.3%、前年同期比+1.2%と予想外に堅調でした。
コロナ前の水準をしっかり回復しており、コロナ後の落ち込みからの回復局面がまだまだ続いているように見えます。


思った以上に実質GDPが堅調に推移している理由は主に以下の二つです。

 

④まずは雇用の堅調さです。

左のグラフは就業者数ですが、いずれも順調に増加しており、過去最高水準に達しています。

右の図は人手に対する需要をドイツ連邦雇用庁がインデックス化したものです。最近やや軟化しているとはいえ、まだまだ非常に高い水準が続いていることが見て取れます。

 

⑤もうひとつは過去最高レベルにまで積み上がっている製造業受注残です。


青線の製造業受注はウクライナ危機以降ガクンと落ちて、今でもずるずると下がってきているわけですが、コロナ後のサプライチェーン障害、資材不足、人手不足のため、赤線の生産はずっと低迷したままになっています。受注を生産でこなしきれないまま今日に至っていますので、足元の受注は月商の約9か月分にまで積み上がっています。
そのような状況ですので、受注が軟調に推移しても、GDPに直結する生産はほとんど落ちずに済んだということです。
今後需要はさらに減少してくるでしょうが、これまでの受注のたくわえがたんまりあるので、すぐに生産調整、人員削減、とはなりにくい状況です。

従って、来年のマイナス成長に向けてGDPがぐっと落ち込んでくるのはまだもう少し先になりそうですし、来年マイナス成長になるにしても、そんなに深くて長いものにはならないだろうということになります。

 

⑥とはいえ世界経済は急減速しています。米国主導によるグローバルベースでの金融引き締めに加えて、エネルギー価格高止まりや中国ゼロコロナ政策による逆風のためです。

こちらのグラフの青線はグローバルベースのPMI(購買担当者指数)ですが、今後黄色の線の実質GDPが急減速することを示唆しています。

 

ドイツの輸出は名目GDPの4割程度を占めていますので、このような世界経済の急減速からドイツが無傷で逃れられるわけがありません。


⑦実際、ドイツでもっとも重要な景気先行指数であるifo景況指数は急速かつ大幅に悪化しています。

左図はifo景況指数の構成3要素の推移ですが、将来の見通し(青線)の急速な悪化が主導する形で、総合指数(赤線)がかなり落ち込んできています(但し、現況指数の相対的な高止まりは上述の③GDPの予想外の健闘と整合的です)。右図は景気サイクルチャートですが、直近10月分のデータはリセッション局面にしっかりと足を踏み入れてきています。

 

⑧貯蓄率を見ても、コロナ後の1年間半は過剰貯蓄の積み上がりで高水準に推移していましたが、今年上半期時点でコロナ前の水準にほぼ戻ってしまっていますので、リベンジ消費は概ね出尽くしたと考えるべきでしょう。



⑨そうなると次の問題は、ドイツ経済がいつごろからどれくらい落ち込むのか、ということになります。実際の統計は来年の1月末頃まで発表されませんので、足元の走りをできればリアルタイムでトレースしたいところです。

毎月下旬にドイツ経済省が発表しているNOWCASTはその一つの手がかりになります。これによると、第4四半期は前期比▲0.7%となっています。


⑩もうひとつの手がかりは、ドイツ連邦銀行が毎週月曜夕刻に発表している週次経済活動指数(Weekly Activity Index)です。

消費電力、トラック物流、グーグル検索などのリアルタイムデータを使って毎週ドイツ経済の体温を測定してくれています。かなり乱暴な推計ではありますが、毎週トレースできるところが最大の魅力です。
英語でも出ていますので、こちら↓のリンクからグラフだけでも毎週チェックすることをお勧めします。

Weekly activity index for the German economy | Deutsche Bundesbank

⑪このようなマクロ環境下、日本企業として当面気を付けておくべきは、

  1. プライシング戦略
  2. 人材確保
  3. 為替レート問題

の3つだと思います。順番に見てまいりましょう。

 

⑫まずは強気なプライシング戦略が必要ということです。
ドイツは来年実質マイナス成長といいますが、それはあくまで一時的に異常に高くなったインフレを差し引いた後の話です。こちらのグラフにある通り、ドル名目ベースのドイツGDPを見ると、今後数年にわたる高成長軌道は今もうすでに始まっているということです。

強い名目成長でパイ自体は拡大中ですので、欧米企業は遠慮なくどんどん値上げしてきます。実質マイナス成長などと言われてもひるまず、強気のプライシングで適正利潤確保に動くべき局面と思います。 

 

 

⑬2点目は、人材確保におけるコスト高を覚悟する必要があるということです。

先ほどドイツの雇用が堅調というデータをお示ししましたが、少子高齢化は日本だけの問題ではなく、ドイツでも、移民や難民を投入してもまだまだ人手が足りないという展開になっています。下図の通り、来年、再来年と4%超の賃上げを覚悟する必要があります。

インフレ一時手当を支給したり、有給休暇を上乗せしたりするという動きは既に出始めています。

大都市の家賃も上がっているので、優秀な人材を確保するためには、賃金以外にも住宅手当やホームオフィス対応など、寛大なオファーが必要となる可能性が高いと思われます。

今後年末年始にかけて、来年度予算を策定する際には、物件費だけでなく人件費もかなり上がることを織り込む必要があります。

また、日本的な視点で人件費をケチケチしていると、キーパーソンにいきなり辞められてしまうというリスクが高まると思います。

 


⑭最後に本年度下期の想定為替レートが実勢からかけ離れている問題です。

直近10月の日銀短観によると、今年度下期の日本企業の想定為替レートは、ドル円で126.43、ユーロ円で134.29となっています。それぞれ市場実勢より15%/9%円高にずれています。

 

IMFによると今年の購買力平価(PPP)はユーロドル1.389、ドル円90.39となっています。ユーロ円の中長期的フェアバリューは125.54(90.39×1.389)となりますので、本来もっと円高であるべきだという気持ちはよく分かります。

しかし下のふたつのチャートを見る限り、今期中にこれらの想定レートが実現する可能性はかなり低そうに思われます。

輸出企業は円安で有利になっているので特段アクションを起こす必要がないかも知れませんが、輸入企業にとっては想定以上のコスト高で不利な状態が続くことを意味しますので、予算修正や販売・調達戦略見直しなどの対応が必要と思います。

 

長くなりましたが、今回は以上です。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。

 

【データソース一覧】

IMF DataMapper

ifo Geschäftsklima weiter schlecht (Oktober 2022) | Fakten | ifo Institut

https://www.boj.or.jp/statistics/tk/gaiyo/2021/tka2209.pdf

https://statistik.arbeitsagentur.de/Statistikdaten/Detail/202210/arbeitsmarktberichte/lage-arbeitsmarkt/lage-arbeitsmarkt-d-0-202210-pdf.pdf?__blob=publicationFile&v=1

PMI Releases (spglobal.com)

https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/Infografiken/Schlaglichter/2022/11/11-konjunktur-BIP-nowcast-download.pdf?__blob=publicationFile&v=4

Volkswirtschaftliche Gesamtrechnung (VGR) Deutschland - Statistisches Bundesamt (destatis.de)

https://gemeinschaftsdiagnose.de/wp-content/uploads/2022/10/GD_2022-2.pdf

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