昨日発表されたドイツ5賢人委員会の経済分析のエッセンスはこちらで速報させて頂きましたが
20221109 ドイツ5賢人委員会の経済分析エッセンス - 日独経済日記 (hatenablog.com)
金融/財政政策に対するコメント部分にとても良いデータを発見したので以下ご紹介します。
それがインフレと可処分所得階層の関係(今年9月時点)を示したこちらのグラフです。
縦軸 青:インフレ負担率 薄青:インフレ率 橙:貯蓄率(右軸)
これを見ると、以下がFACTとしてデータで示されていることが判ります。
- 所得階層毎に消費対象(食品、エネルギー、家賃など)のウェートが多少は異なるものの、消費支出増加率は低所得層と高所得層でもそれほど変わらない(薄青)。
- しかし、可処分所得に占めるインフレ負担分の金額の比率は、所得のほとんどを生活費につぎ込まなければならない低所得層で高く、生活費を大きく上回る収入がある高所得層では低くなる(青)。
- その結果として、高所得層は高い貯蓄を維持できているけれども、低所得者層は貯蓄を取り崩さざるを得なくなっているため、貯蓄率がマイナスになってしまっている。
ドイツ5賢人委員会は、これらのデータを踏まえた上で、金融/財政政策に対して以下のようにコメントしています。
- ユーロ圏のインフレ率は、ユーロ発足以来過去最高(最悪)。
- 高いインフレ率は経済成長を鈍化させ、労働市場、企業の資金調達や投資決定に悪影響を与える。
- 所得が低い世帯ほと重い負担がかかり、経済的余裕が失われている。
- 欧州中央銀行(ECB)は、物価の安定と信認を維持するために、引き続き断固たる行動をとらなければならない(但しインフレと成長・雇用のバランスには要配慮)。
- 財政政策(ドイツ政府)は、直接インフレを阻止しようとするのではなく、ECBのインフレとの戦いを極力邪魔しない形にすべき。
- 貧困世帯は所得の大部分をエネルギーや食料に費やして最も困窮しているため、最優先で救済されるべき。
- 但し、エネルギーを節約しようというインセンティブが失われるような価格抑制は回避すべき。
- 可処分所得を増加させる救済措置は需要を大幅に増加させ、どうしてもインフレ押上げ圧力になってしまうので、可能な限り低中所得世帯に絞り込むべき。
- 高額所得者には一時的な連帯増税導入すべき。
(⇒但し、この提言に対しては、連立与党内ジュニアパートナーであるFDP(経済・自由競争重視)が強く反発。実現の可能性は低い)。