政党別支持率5%割れで党勢の立て直しが必要なFDPを震源として、最近ショルツ連立政権内での不和が深刻化し、「連立崩壊の危機」と見做されていることについてのドイツメディアの報道ぶりは以下の通り:
- 事態の深刻化のきっかけは、先週金曜に財務省から発表されたFDP独自の経済政策提案文書。
- 連帯税廃止、法人税減税、多くの気候変動政策規制の撤廃、労働時間延長、社会保障縮小など、CDU/CSUの主張に近く、連立政権内に軋轢を生んだ。
- 当該文書は左派色の強い連立契約の内容からかけ離れており、状況の悪さをさらにエスカレートさせた。一部では「連立政権への離婚届」とさえ呼ばれている。
- リントナー財務相(FDP党首)としては、財源不足環境下での経済テコ入れについて、まず既存の枠組みにとらわれないオープンな議論を仕掛け、どうしても埒が明かなければ連立離脱に踏み切ろうということだろう。
- リントナー氏にとって最も重要なのは、可及的速やかにFDPの支持率5%を回復することだが、現時点では4%を割れている(下添)。
- FDPがこのまま対立路線に突き進み、ショルツ政権を崩壊させたとしても、その後の前倒し選挙でFDPはすべての議席を失う可能性が高く、得策ではない。
- このような八方塞りの状況をショルツ首相がどのように打開するかに内外の注目が集まっている。
- ショルツ首相は連邦議会(下院)に信任投票を求めることができるが、FDPの票がなければ過半数に届かないので敗退する。しかし、議会が首相を罷免できるのは、議会が同時に新首相を選出した場合のみ(「建設的不信任」)。
- 現時点で新首相を選べるような多数派は見当たらない(ので、日本のように簡単に前倒し総選挙とはならない)。
- テクニカルには来年度予算の採決が分岐点。予算案が否決されれば、信任投票に進むしかなくなるが、可決されれば、来秋総選挙までショルツ政権継続へ。
- 目先は、今週水曜(11/6)夜、党および国会グループの指導者が首相官邸で会する連立委員会(久しぶりの開催)での議論に注目。
- ドイツ国内の雰囲気が悪くなる一方である状況下、これ以上立ち止まっていてはいけないというリントナー財務相の危機感自体は正しい。
- しかし、実際に前倒し総選挙に踏み切るかどうかについては、関係者全員がPros/Consを慎重に比較検討する必要がある。
- 重要なのは国が前に進むこと。どんな政府ができるにしても、目の前の緊急の課題を避けて通ることはできない。
- 今最も重要なのは、ロシアの脅威からドイツを守ること。これが他の全ての課題の大前提となる。
- 国防能力を必要なレベルにまで高め、ウクライナを徹底的に支援し、民間の経済安全保障を強化する必要があるが、これらは決して安く上がるものではない(大量の資金をつぎ込む覚悟をしなければならない)。
- (ドイツ語版Bloombergのコメントより)トランプ2.0はドイツ経済にとって凄まじい逆風になるので、債務ブレーキを外す格好の口実になる。また、そのような環境下で前倒し総選挙に打って出ることは無責任と見做される。従って、よりによってトランプ再選が連立崩壊回避の切り札になる。
【政党別支持率】~FDP(黄、自由経済重視)は5%条項(得票率5%未満で議席ゼロとなるルール)抵触状態が続いており、来年9月28日(日)の次回総選挙前までに何としても党勢を回復する必要がある。
日本と違ってドイツではそう簡単に解散総選挙にできないが、もし今すぐ選挙なら、メルツ首相(CDU)のもとでCDU/CSU(黒)+SPD(赤)の大連立政権となる可能性が高い。
https://dawum.de/Bundestag/#Umfrageverlauf
【早期解散についての世論調査】
54%が賛成、41%が反対(政権継続を支持)。