ショルツ首相(上図右)がリントナー財務相(FDP党首、左)を解任し、信号機連立政権が崩壊したことについてのドイツメディアの報道ぶりは以下の通り:
- 当面ショルツ首相は自身のSPDとGreenの2党よる少数政権を率い、CDU/CSUに挙国一致的な協力を求めながら来年度予算の成立を目指し、その後、来年1月15日に内閣に対する信任投票を実施する意向。
- ドイツではヒトラーの台頭を許した歴史的反省から、単なる「不信任」動議は提出できない(下院の過半数が支持する次期連邦首相候補が必要)。
- 従って今局面では事実上、ショルツ首相/政府側から「信任」を問わない限り、首相が退任に追い込まれることはない。
- ショルツ政権が信任投票で信任される可能性は極めて低いので、遅くとも来年3月までには前倒し総選挙が実施される見込み。
- ショルツ首相は記者会見で「わが国に必要な決定を下す強さを持つ、行動できる政府が必要だ」と述べる一方、震源となったリントナー財務相については「公共の利益よりも党利党略を優先し、私の信頼を何度も裏切った」と強く非難した。
- 一方のリントナー財務相は「首相は聞く耳も指導力も持ち合わせていなかった」「FDPの経済政策提案を一切検討ぜず、債務ブレーキ緩和だけを最後通牒のように要求してきた」と反論した。
- Greenは「大変遺憾」と極めて控えめな反応。SPDの肩を持って政局流動化の共同責任を問われるリスクを回避。
- リントナー財務相は昔「間違った統治に加担するよりは、そもそも統治に参加しないほうがマシ(Es ist besser nicht zu regieren, als falsch zu regieren)」という名言でジャマイカ連立交渉を土壇場で破綻させた実績があるが、今回再びそれを実践して見せた格好。
- 欧州最大の経済大国で、よりによってトランプ再登板が確定した日に政局流動化に突入した。欧州としては考えうる最悪の展開かも知れない。
- ウクライナにとっても、米国とドイツという2大支援国で政権基盤が揺らぐことに大きな不安を感じているだろう。
- ドイツ国内では経済/難民問題に対する不満が鬱積し、政府を評価する声が1割程度と低迷し、極右/極左勢力が台頭する中、連立政権内では財政政策や経済立て直しの方向性を巡って、出口の見えない対立が何か月も続いていた。
- ドイツ経済低迷がトランプ2.0でさらに悪化しかねないという最悪のタイミングで連立政権崩壊のきっかけを作ったのはFDP(経済重視のリベラル政党)だが、もともと他の左派2党と共通の政治的基盤が乏しく、我慢の限界に達しただけであり、FDPだけを非難するのは不公平。
- ショルツ首相が当面の協力を求めるCDU/CSUも政策スタンスはFDPに極めて近く、予算交渉も相当な難航が予想される。
- 当面のCDU/CSUの対応が焦点。政府に変に協力(妥協)せずに、とっとと選挙に持ち込んだ方が得策という声もある。
- 【補記】その後のショルツ首相とメルツCDU党首の会談で、メルツ党首は遅くとも来週初の信任投票実施を前提に必要な法案への協力を提示。
<政党別支持率>
- CDU/CSU(黒)単体で3割強の支持率を誇り、今すぐ選挙をすれば、首相輩出が確実に見込める有利な立場にある。従って、CDU/CSUがショルツ政権に予算策定で安易な妥協をする必要は全くない。
- FDPは5%条項抵触で議席を全て失う可能性が高く、今回党利党略で前倒し総選挙を仕掛けたわけではなさそう。
- ショルツ首相はCDU/CSU相手にFDPと同様の難しい交渉を強いられるため、総選挙がさらに前倒しになる可能性も十分ある。
- ちなみに前倒し選挙実施に対するドイツ市民の意見は、賛成53%、反対40%と割れている。
https://dawum.de/Bundestag/#Umfrageverlauf
<日本語報道例>