日独経済日記

日独間の架け橋となることを目指しています

20210929 ドイツ政治情勢アップデート

メルケル退場と共に、中道右派(CDU/CSU)と中道左派SPD)による2大政党時代が終了し、GreenとFDPを加えた民主的4政党間の連立を前提とする新たな時代が始まりました。このような状況下では、わずか25%くらいの得票率でも首相輩出が可能となります。今までよりは選挙後の連立交渉に時間がかかるでしょうし、いつ何時予測不能な展開に陥らないとも限りませんのでしっかり見張っていくつもりです。

 

●今回のドイツ総選挙では、極右(AfD:12.6⇒10.3%)も極左(Linke:9.2⇒4.9%)も議席を減らしており、極右や極左を懐柔して政権内に取り込まざるを得ない他の欧州諸国から見ればドイツはまだまだ「高度に民主的」であり、うらやましく思われています。一方、2大政党時代よりは明らかに不安定な政権とならざるを得ないため、ドイツのEU内でのリーダーシップが弱まる可能性は高いようにも思われます。

 

●政策面で隔たりが大きいGreenとFDPの2党が本日早速事前調整(Vorsondierung)を開始しました。交渉担当の4人の顔ぶれがこちらです:

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過半数を確保できている大連立(SPD+CDU/CSU)のオプションを、SPDもCDU/CSUも「国民が望んでいない」と排除しているので、GreenとFDP両党を含む、信号機(SPD主導)とジャマイカ(CDU/CSU主導)の二つしか現実的な選択肢が残っていません。GreenとFDPの一存で、ショルツ(SPD)かラシェット(CDU/CSU)のどちらを首相にするか決められるわけですから、実にパワフルなキングメーカー・デュオ登場です。

 

第1党であるSPDと第2党となったCDU/CSUの間で、得票率が1.6%の差しかないことも、両党の立場を強くしています。ショルツは第1党なのに連立交渉で主導権を握れません(首相になれないリスク回避のために大き目の譲歩を迫られるでしょう)。一方、ラシェットは第2党に転落した大敗を取り返すために、SPDよりさらに大きな譲歩を提示せざるを得ません。

 

事前調整の焦点と目されるのは以下4点です(Green/FDPの主張):

  1. 気候変動対応:規制や補助金をフル活用した強い政府介入主導/CO2課税を軸とした市場原理主導
  2. 債務ブレーキ:柔軟運用/厳格運用(2/3が必要な憲法改正はどのみち不可能、巨額投資の必要性では一致、特別基金活用に活路か)
  3. 家賃高騰対策:家賃上限導入/規制緩和や税控除拡大などによる新規建設促進
  4. 健康保険改革:官民健保の一体化(介護部分も取り込み)/官民健保間競争促進

 

●CDUではラシェットがほぼ四面楚歌の窮地に陥っていますが、今ここで彼を辞任させれば、ジャマイカ連立による政権参画の可能性が完全に閉ざされるので、とどめを刺されることなく生き残っています(ドイツでは首相/筆頭候補として選挙を経ていない人物は連立組成など許されないというのが常識/不文律です)。

 

昨日CDU/CSU院内総務(連邦議会議員全体の代表者、野党になると最も重要なポストになる)の人事がありましたが、メルツ、レトゲン、シュパーンら(ラシェットのライバル達)も就任に強い意欲を見せる中、今回は現職のブリンクハウスが半年だけ暫定的に務める(この間に連立交渉が決着するだろう)ということで妥協が成立しました。今後これらのCDU大物4氏とCSUゼーダー党首がどう動くかについても注目する必要があります。