昨日OECDからドイツ経済報告書(2023年)が発表されましたので、そのエッセンスをまとめておきます(ヘッドラインについては上図緑枠部分をご参照下さい。独5賢人の予測とほぼ同じです)。
<OECDからドイツ政府に向けた提言>~日本にも同じことが言える部分あり。
- 輸出主導の成長、失業率の低下、財政黒字が約10年続いたが、その後のパンデミックとエネルギー危機により、ドイツ経済が構造的な弱点を抱えており、気候変動対応とデジタリゼーションの加速が切実に必要であることが判明した。
- 急速な高齢化が財政を圧迫し、熟練労働者不足が深刻。労働供給を増やすためには、低技能者や副業者に対する税・負担を軽減し、技能を有する移民の促進や教育訓練の充実を図ることが重要。
- 財政のサステナビリティを維持しながら高い投資ニーズを満たすために、既存の税制優遇/補助金を根本的に見直しつつ効果的なインセンティブが付与できるようにすることが必要。また、優先順位の高い支出をサクサク実行できるようにすることも大事。
- 2045年までのカーボンニュートラル達成<筆者注:ドイツは他国の見本となるべく5年前倒し達成を目指している>に向けては、競争力や社会的結束を弱めることのないよう、費用対効果の高い施策が必要<筆者注:必ず大きな痛みを伴うのでこれが難しい>。
- ドイツは炭素価格を引き上げるべき。特にグリーンR&Dの促進、持続可能な輸送と電力網インフラの開発促進、住宅部門の脱炭素化のために、うまく設計された部門別規制と補助金の組み合わせが必要。炭素価格からの収益は、低所得者支援、労働市場活性化に投入し、社会的結束強化に役立てる。
<主要計数>
コアインフレ(HICPベース)が今年+5.7%、来年+3.4%と高めであること、
経常黒字(GDP比)が今年5.7%、来年6.3%と急回復する点が目を引きます。
今年は投資と個人消費がマイナスで低成長(+0.3%)どまりになりますが、
人手不足のため雇用は堅調で失業率は全く上がりません(3.0%/2.9%)。
<企業の新陳代謝>
設立(左)も廃業(右)も減り続けており、低調です。
<GDPデフレータの寄与度>
ドイツ(上)では、ドイツ以外のユーロ圏(下)に比べて、価格上昇分の多くが労働者と税金に配分されています(灰:単位労働コスト、緑:企業利益、青:租税公課)。
<国民負担率>
OECD諸国の中で、ドイツはベルギーに次いで高い2位(ほぼ5割)となっています(赤:所得税、青:社会保険料)。なお、日本の所得税はかなりの低水準です。
<予測に対するリスク要因>
ダウンサイド:①厳冬によるガス不足、②感染症再流行、
③貿易障壁増大、④インフレ/金利上昇
アップサイド:ウクライナ戦争の平和的解決
<住宅バブル>
ドイツの住宅価格は近年、可処分所得や家賃を大きく上回りつつ(A)、他国比でも顕著に(B)上昇してきました。債務水準は相対的に低い(D)ものの、金利コストが急騰している(C)ので、一応要警戒です。
<公共サービスのデジタル化度合い>
OECDの中でドイツはかなり低位、日本は5位(韓国がトップ)となっています。
<基本計数>
輸出がGDPの50.2%、年間労働1,341時間、相対的貧困率(所得がメジアンの半分以下の人の比率)10.9%など、結構興味深い数字がまとめられています。
<日本語での報道ぶり>
いつものことながら、メチャさらっとしています。本報告はOECD内での興味深い比較データ満載なので、原典に当たる価値があります。