先日(7/15)完了したドイツに対するIMF4条協議の結果のエッセンスは以下の通り:
- ドイツ経済はウクライナ危機後のエネルギーショックから回復し始めている。
- エネルギー節約のインセンティブを維持しながら所得支援を提供するなど、ドイツ政府は適切かつ強力な政策対応を実施した。
- 節約努力と新たなエネルギー供給の確保に向けた措置により、ガス価格はより正常なレベルに戻った。
- 今年も緩やかな景気回復が続く見込み。賃金上昇率がインフレ率を上回っていることから、2024年は民間消費が景気回復を牽引するはず。
- 成長軌道への回帰で自信が深まれば、ECBの金融緩和と相まって、来年の消費と投資をさらに押し上げることになりそう。
- エネルギー価格の低下が小売価格に転嫁され続け、インフレはゆっくりと低下し続ける見込み。但し、コアインフレ率は強い賃金上昇により高めに留まる。
- 生産性の大幅上昇や予想を大幅に上回る移民でもない限り、ドイツの潜在成長率は1%未満に減速する。
- 急速な人口高齢化により、年金と医療費も大幅に増加する見込み。
- ドイツの経済見通しに対するリスクは概ね上下均衡。
- 上振れリスクとしては、良い経済ニュースが続いて、消費と投資が予想以上に強く出ること。
- 下振れリスクとしては、地経学的分断の加速、世界的紛争の悪化、世界の商業用不動産(CRE)市場におけるストレスの激化の可能性が挙げられる。
- 投資、生産性、労働力供給の拡大により潜在成長率を強化するための追加改革を奨励。
- 交通、エネルギー、通信、その他の重要分野のインフラのアップグレードを支援するため、もっと公共投資が必要。
- 公共投資の増加は、対外収支均衡、生産性と潜在成長率の向上、グリーン化とデジタル化の支援にも役立つ。
- 高齢化と防衛関連の支出圧力の高まりを考慮すると、年金改革、環境に有害な補助金の削減などによってさらなる財政余地を生み出すべき。
- 債務ブレーキのおかげで、ドイツは今後の財政出動余地を確保できている。その余地をうまく活かして欲しい。
- 潜在成長率をさらに押し上げるため、ドイツ政府は、官僚主義の削減、デジタル化とイノベーションの促進、資本市場同盟に向けた前進を含む欧州単一市場の深化に向けた努力を継続するべき。
- また、移民の統合強化や女性のフルタイム労働市場参加のさらなる促進など、労働力供給の強化に向けた継続的な努力を奨励(育児・介護サービスへのアクセス拡大や、夫婦2人目の稼ぎ手に対する実効限界税率の引き下げなどが有効)。
- ドイツの金融(銀行・保険)システムは強固な資本と流動性を備えており、依然として強靭。但し、商業用不動産リスクは引き続き要警戒。
- 金融犯罪対策機関設立や実質的所有者透明性登録簿のデータ品質の向上など、AML/CFT 枠組みを強化する取り組みを歓迎。2022年のFSAP勧告の実施を奨励。
- 気候変動問題におけるドイツの主導的役割は称賛に値する。但し、野心的な目標を達成するにはさらなる努力が必要。
- ドイツには、世界の課題解決のための多国間協力において引き続きリーダーシップを発揮し、自由貿易政策とルールに基づく多国間貿易体制を推進していって欲しい。
【IMF4条協議とは】
IMF協定第4条の規定に基づき、IMFは加盟国と通常毎年協議を行う。 IMF職員の代表団が協議相手国を訪問し、経済や金融の情報を収集するとともに、その国の経済状況や経済政策について政府当局と協議する。
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