日独経済日記

日独間の架け橋となることを目指しています

20240613 中国EV関税引き上げについてのドイツメディアの報道ぶり

中国のEVは政府補助金の力を借りて(2割程度安い価格で)ダンピング輸出されているとして、EUが最大38.1%の懲罰的関税を既存の10%に上乗せしようとしていることについての、ドイツメディアの報道ぶりは以下の通り:

  • 基本的に関税は、貿易を阻害し、より優れた製品の価格を吊り上げ、自国消費者を苦しめるだけのものであり、できるだけ回避したい。
  • しかし、本件は不公正な競争から欧州の自動車産業を守るために必要な措置であり、間違っていない。
  • 中国政府が国の資金でEVの開発と製造を大規模に支援しており(年2000億ユーロ程度)、自国自動車産業に不当な競争上の優位性を与えていることをEUは確認済み。
  • もともと不当に安価だった中国産太陽光発電パネルに、ドイツ政府がわざわざ補助金まで提供して輸入を促進し、結局ドイツの太陽光発電産業壊滅させてしまった。同じ過ちを二度と繰り返してはならない
  • 米国は既に関税を100%に引き上げており、手をこまねいていれば、米国から締め出された中国産EVが欧州になだれ込んでくることは必至の情勢。
  • いったん中国との貿易戦争を始めてしまうと、EVだけで終わる可能性は低い。太陽光発電風力発電、電池などに拡大することになりそうだ。
  • 中国政府は激怒しており、輸出集約型のドイツ経済を狙い撃ちするような対抗措置を講じてくる可能性が高い。
  • 中国からの輸入車の中にはドイツメーカーが中国で生産したものも多数あり、ドイツ自動車業界にとっては損害の方が大きくなる可能性大(従って本件にはずっと強く反対してきた)。
  • 保護主義は、イノベーションを怠っている既得権益者の利益を守る一方、価格高騰と製品の質の低下で消費者を苦しめる。
  • 貿易戦争や市場の分断ではなく、競争拡大や市場開放の努力を通じて適正な価格の実現を目指すのが本来の姿。
  • 中国市場を重視するドイツ自動車産業界は、対中貿易摩擦の激化を誰よりも心配しており、ドイツ政府としてもEUと中国がより友好的な解決に達することを強く望んでいる。
  • ハベック経済相は中国との対話を呼びかけている。簡単ではないだろうが、誰も得をしない貿易戦争を回避すべく努力することは正しい
  • 懲罰関税はまだ発効していない。欧州委員会はまず、中国の過剰生産能力の問題をどのように解決できるかについて中国政府と交渉したいと考えている。この協議が不調に終わった場合、この関税が7月4日から適用されることになる
  • 昨日(本件発表当日)DAXは1.4%上昇していたが、ポルシェ(▲7%)、フォルクスワーゲン(▲1%)、BMW(▲1%)、メルセデス・ベンツ(▲1%)いずれも軟調だった。
  • その結果、たとえばBMW株のPERは5.5倍、配当利回りは6.6%と非常に魅力的なものとなっている。

●中国からの輸入EVのうち、約2/3は中国メーカー以外(テスラが最大、ドイツメーカー分ではBMWが大きい)

放置すれば中国メーカー(赤)がどんどんシェアを伸ばすと予想されている。但し、50%以下の関税では中国のEVはまだまだ競争力があるとする見方もある。



<日本語報道例>

www3.nhk.or.jp

www.bloomberg.co.jp

 

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