今回のショルツ首相2回目の訪中についてのドイツメディアの報道ぶりは以下の通り。
- 今回の訪中の主な目的は、①【最重要】ウクライナ問題への協力要請/ロシア支援阻止、②補助金で支援された輸出ダンピング(特にEVや再エネ関連)の阻止、③中国市場へのアクセス改善、④その他経済協力の可能性模索、⑤地政学的野心の牽制、⑥人権尊重要請など。
- Welt紙の一面トップ「(ウクライナ問題中心の首脳会談)ほぼ成果なし」~本件全体を的確に表現している。(成果と言えるのは、対中リンゴ輸出、リサイクルや自動運転での協力くらい)
- ショルツ首相は中国行きの政府専用機の中でイランによるイスラエル攻撃を知った。上記に中東和平への協力要請/イラン支援阻止が加わり、もともと複雑だった今回の訪中がさらに難しいものになった。
- 独中両首脳の会談は3時間20分にもわたったが、ウクライナ問題(平和会議への参加要請)やダンピングなどに対する中国側への抗議/苦言は、いずれも拒絶され、具体的成果は殆どないまま終わった。
- 今回も中国ビジネスに大きく依存するドイツ企業の経営トップ12人(BMW、メルセデス・ベンツ、BASFのCEOなど)が首相に同行した。ドイツ経済は中国依存があまりにも大きく、ドイツ経済界に相当配慮せざるを得ない。
- 2023年にドイツ政府は初めて包括的な「対中戦略」を策定し、デリスキングの推進を打ち出したが、その後ほとんど具体的な進捗は見られない。
- 中国の気候変動対策戦略の主軸は、積極的ダンピング。太陽光発電関連製品の生産が大幅に増加し、国内市場から溢れる過剰生産分のはけ口は、欧州を中心とする輸出市場となっている。
- 価格は半分くらいなので、他国の競合企業は太刀打ちできず、市場から締め出されつつある。手遅れになる前に早急に手を打つ必要がある。
- 中国には安価で優れた再エネ技術があることは確か。カーボンニュートラルの早期実現のために、欧州がこれらを正しく活用することは必要。
- 欧州にとって重要なのは、①禁輸などで中国から不意うちされないよう、必要な在庫を十分確保すること、②中国以外からの調達ルート拡充/多様化を進めること、③これらの措置をを何年にもわたって一貫して維持すること。
- 不動産バブル崩壊で経済的に苦境にある中国は、米国との対立が深まる流れの中で、ドイツ/欧州との経済関係深化を望んでいる。
- 中国がドイツに保護主義の放棄/ダンピング批判撤回を要求する一方、ドイツは公正な貿易と中国市場におけるドイツ企業と中国企業の平等な扱いを要求している。
- かつての信頼関係には今や多くの亀裂が生じているが、ドイツ経済も苦境にあるので、中国との経済関係に今支障を来すわけにいかない。
- 中国はウクライナ戦争における数少ない勝者。物資供給VSエネルギー調達で経済的メリットを享受しながら、西側諸国(特に欧州)の安全保障と経済の弱体化を余裕しゃくしゃくと見守ることができる。
- 他国が大いに疲弊した上で、ロシアがウクライナの一部植民地化に成功するのが中国にとって最高の結果。ロシアはこれまで中国の原材料植民地として機能してきたが、その植民地が実質的に拡大することになる。
- 世界的問題に対処するためには、中国との協力が不可欠。14億人もの人口を擁する核保有超大国は、ウクライナ問題でも中東問題でも(ドイツとは比較にならないほど)大きな影響力を発揮しうる。
- 国際秩序へのダメージは中国にとっても決して得にならないという状況を作ることと粘り強い交渉が引き続き重要。
<ドイツの対中依存分析関連>
<日本語報道例>
<日独経済日記>