日独経済日記

日独間の架け橋となることを目指しています

20230526 ECB設立25周年に関するドイツメディアの報道ぶり

https://www.ecb.europa.eu/ecb/history/25-year-anniversary-of-the-ecb/html/index.en.html

 

5月24日に開催されたECB設立25周年記念式典についてのドイツメディアの報道ぶりは以下の通りです。

 

  • 欧州統一通貨ユーロは、1999年1月にファンダメンタルズが必ずしも十分収斂していない11 か国(現在は20か国)の加盟国でスタートした。
  • ドイセンベルク初代総裁(故人なので上の写真にいない)とその後継者トリシェ総裁(左)時代の経済環境は概ね平穏だったが、その後、リーマンショック、欧州債務危機(ドラギ、右)、コロナ、ウクライナ戦争/インフレ(ラガルド、中央)といった荒波がECBに襲い掛かった。
  • ECBはこれらの暴風雨に耐え、世界で2番目に重要な中央銀行としての地位を確立した。多くの懐疑派が主張していたよりは遥かにうまく行っている
  • 政治(財政政策)の失敗に対する消防団として機能する中で、当初想定していたより遥かに巨大な権力を有する組織に成長した。
  • その過程で、過度に踏み込んだECBの各種政策をこれ以上支持したくないというドイツ人理事の抗議辞任が相次いだ(ECBチーフエコノミスト、シュタルク氏、専務理事ラウテンシュレーガー氏、ドイツ連邦銀行総裁のウェーバー氏、ヴァイトマン氏)。
  • 最近のインフレ局面でECBはインフレリスクを過小評価し、完全に後手に回ってしまった。今後のインフレ早期鎮静化による信認回復が問われている。



<主要エコノミスト/金融政策専門家コメント>

Ricardo Reis, ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス経済学教授:

FEDは設立から25年(1913~1938年)の間に、世界大戦、株暴落、世界恐慌を、ECBはコロナ、欧州債務危機金融危機を経験した。ECBは2010年、2020年の両方で新たな恐慌を防いだという点で一定の評価に値する。2024年末までにインフレ率を2%に下げるというもう一つの大きな課題の成功を祈る。

Lorenzo Bini Smaghi, ソシエテ・ジェネラル会長、元ECB理事:

私がECB設立準備を進めていた当時、イタリアの友人や同僚の多くは、ユーロなどできないし時間の無駄だと言っていた。この25年間でユーロが20カ国(+9)に増えたその功績の一部はECBにある。

Clemens Fuest, IFO研究所所長兼ミュンヘン大経済学部教授:

金融政策と財政との関係がECB最大の課題。ECBは本来のミッションを越えて、各国財政政策の失敗のしりぬぐいを強いられている。ECBが自ら気候変動政策に乗り出すことにも同様の問題がある。財政との棲み分けがうまくいって初めて、ECBがその使命を全うしていると言える。

Lena Komileva, G+ エコノミクス・チーフエコノミスト

設立から25年の前半、ECBは低すぎるインフレと闘ってきた。ユーロ崩壊を防ぐために、市場や政治家からの圧力と折り合いをつけてきた。しかし現在のECBは、財政ファイナンスに煽られたインフレリスクと闘っている。地政学リスク、気候変動対応、銀行システム不安、生活水準低下といった逆風の中で、ECBの前途は多難だ。

Otmar Issing, 元ECB、元ドイツ連邦銀行チーフエコノミスト

ドイツ連銀時代、優秀なスタッフたちの努力でユーロの青写真を描き、実現にこぎつけた。 祖国ドイツを中心に懐疑論が広まったが、長期金利などの推移を見る限り、この歴史的な実験は失敗とは言い難い。

Lars Feld, フライブルク大経済政策教授、リンドナー財務相顧問、元5賢人:

ECBは金融危機債務危機を乗り越え、ユーロ圏諸国をうまく誘導してきたが、その緩和的金融政策からの切り替えに失敗し、現在インフレ対応が大きな試練となっている。今後はECBがインフレ克服に成功し、財政問題から解放されることを祈りたい。

Peter Bofinger, ヴュルツブルク大経済学教授、元5賢人:

欧州債務危機の際、当時のドラギ総裁はマイナス金利でデフレを防ぐことに成功したが、緊縮財政でユーロ圏経済にブレーキをかけ続けているドイツでは不評だった。ECBはコロナ危機とウクライナ危機にもうまく対応している。インフレにブレーキをかけるのがやや遅れたが、今後ブレーキを外すのが遅すぎてはいけない。

Jürgen Stark, 元ECBチーフエコノミスト(抗議辞任した人):

ECBは20年以上にわたって物価安定を実現し、多くの懐疑論者を驚かせたが、現在のインフレリスクを見誤り、見当違いの反デフレモードに固執した。政治色の強いECB理事会は、不適切なモデルを信頼し、重要なデータを無視し、ECBの権限外の政策目標に照準を合わせ過ぎているのである。物価安定という中核的な使命に集中して、一刻も早く信認を取り戻さなければならない。

David Marsh, 政府通貨金融機関フォーラム(OMFIF)会長:

2021年のインフレリスク評価で重大なミスを犯して出遅れたため、2025年までにインフレを2%に戻すのはほとんど不可能な状況だ。今後3~4年の間に3~4%のインフレというのがECB理事会の多数派の密かな希望なのだろうか。控えめに言ってもECBの信頼性にとって大きな危機である。

Monika Schnitzer, 5賢人委員会議長、ミュンヘン大比較経済学教授:

ユーロ導入は、EU加盟国の統合を促進するためのものだった。数々の危機を乗り越え、ユーロ圏を維持することに成功している。ECBは現在、景気回復を危うくすることなくインフレを克服するという難しい課題を突き付けられている。多くの批判はあるものの、ECBは一貫性と適応性を保ちつつ、難しい決断を下してきたと評価できる。

Friedrich Heinemann, ZEW法人課税・財政研究部長:

ECBが誕生した「マーストリヒトの世界」で重視されていた財政ルールは今やほとんど顧みられなくなった。ECBはユーロ国債の最も重要な買い手となり、この支援なくして高債務国の円滑な資金調達は不可能となった。この「ポスト・マーストリヒトの世界」において、ECBは事実上独立性を失っており、長期的な物価安定を保てるかどうか非常に不安だ。

Vítor Constâncio, 元ECB副総裁:

ECBは、欧州統合の構築において最も重要な超国家的プロジェクトであるユーロの良き守護者であった。インフレ克服には時間が必要だが、深刻な景気後退に陥ることなくそれが達成されると確信している。すべてが完璧だったわけではないが、ECBはユーロを世界の主要通貨として、また欧州プロジェクトの旗艦として確固たるものにした。設立25周年で祝うべきことはたくさんある。

Konstantin Veit, ピムコのシニア・ポートフォリオ・マネージャー兼ECB専門家:

少し前までユーロ圏は「日本化」の危機に瀕しており、二度と大幅な利上げができなくなるとの見方が一般的だったが、パンデミックと戦争によるインフレでこれが覆った。インフレ目標2%への回帰は基本的に金融政策の結果だが、ECBの財政関与は問題を複雑にしている。ECBがユーロ圏の健全性と安定性に貢献するためには、財政面の配慮を廃して2%の物価安定目標達成に集中にすべき。

Jörg Krämer, コメルツ銀行チーフエコノミスト

EU条約はほとんど変更不能なので、法的にはECBの方がドイツ連銀より独立性が確保されている。しかし、欧州債務危機の際、当時のドラギ総裁は政府の圧力に屈して、財政の尻ぬぐい役を引き受けてしまった。今後のインフレとの闘いにおいてこれが重い負担となるため、目標の2%を大きく上回るインフレ率の長期化が予想される。

Stefan Gerlach, EFG銀行チーフエコノミストアイルランド中央銀行元副総裁:

ECBの金融政策は、私の人生において大きな位置を占めている。欧州債務危機まっただ中のECB理事会に参加し、数々の興味深い議論を経験した。ECB理事会の会合に出席することは、私の職業上のキャリアのハイライトだった。

Sylvain Broyer, S&P Global 欧州チーフエコノミスト

非伝統的金融政策手段として、マイナス金利QE、TLTRO、TPI等を編み出し、戦略面でも、マネーサプライ重視の廃止とインフレ目標の上下対称化に踏み切った。しかしFRBや北欧の中央銀行に追いつくためには、さらなる進歩が必要だろう。

Volker Wieland, フランクフルト大金融安定研究所(IMFS)所長、元5賢人:

ユーロの導入は、欧州統一を進めるための政治的な決定であり、最適な通貨圏の集大成ではない。したがって物価安定確保というECBの任務はそもそも非常に困難なものである。今後は大幅な利上げが必要であろうし、ソブリン債の持続可能性を保証すべき財政ルールやECBの独立性については、再び議論の的となっている。25年たった今でも、単一通貨ユーロは非常にユニークな大実験だが、これまでのところ、多くの懐疑論者や批評家が予想していたよりもはるかにうまくいっている。

Adam Posen, ピーターソン国際経済研究所所長:

1998年にECBが設立されたときの理想主義と熱意は、今でも私を鼓舞してくれる。数多くの技術的問題は些細なものであり、12年前の金融危機克服は何と言っても立派だった。ECBが自らを鼓舞し、他者にも示唆できるような理想を追求するならば、その使命をよりよく果たすことができるだろう。

Thomas Mayer, フロスバッハ・フォン・シュトルヒ研究所創設所長、元GS:

ECBは、ドイツ国民に高く評価されているドイツ連銀の後継者だと宣伝されていた。しかし、2007/2008年の金融危機と、それに続く2010年から2012年にかけてのユーロ危機で、ドイツ連銀の路線から逸脱し、ユーロ諸国の最後の貸し手、ユーロの保証人に変貌した。ECBは昔のドイツ連銀というよりイタリア中銀に近いものとなった。

Peter Praet, 元ECBチーフエコノミスト

ECBは数々の困難な課題を克服し、他国の中央銀行から敬意を払われている。しかし、過去の成功は将来の保証にはなならない。通貨統合は依然として不完全であり、その結果、ECBはしばしば「ギャップを埋める」ことを期待され、時にはその権限の限界に追い込まれることもある。今後、通貨統合のさらなる深化をうまく進めていって欲しい。

 

<ユーロ圏市民の評価(円グラフ)>79%がEURには満足も42%がECBには不満

 

EUR/USD、EUR/JPY長期推移> ユーロ円はユーロ誕生来概ね100~170円のレンジ