専門家委員会の勧告を受け、ドイツ政府は現在時給12ユーロの法定最低賃金を、来年1月初から12.41ユーロ(+3.4%)、その1年後に12.82ユーロ(+3.3%)とする方針を固めました。本件についてのドイツメディアの報道ぶりは以下の通りです。
- ドイツの法定最低賃金は約6百万人(雇用全体の約15%)に適用されている。
- 低所得の女性や東独の労働者での適用が多い。
- 業種別には清掃、飲食、小売での適用が多い。
- ドイツの最低賃金は既にEUの中でトップクラス(月収ベースではルクセンブルクに次いで2位、下図)に高く、企業経営にとっての負担が大きい。
- ショルツ政権は公約に従って、昨年10月に最低賃金をそれまでの時給10.45ユーロから12ユーロへと大幅に引き上げた(+14.8%)ばかり。
- 但し、最近のようにインフレが急騰している局面では、最も生活が苦しくなっている弱い立場の労働者を社会的公平性の観点から救済する必要がある。
- 最低賃金も本来は政府が介入するのではなく、労使間で決着されることが望ましい。(独立)専門家委員会の勧告は毎回どうしても政治的にデリケートなものになる。
- 今回の最低賃金案は、雇用主代表から大歓迎される一方、労働組合から酷評されている。このようなバランスの悪い反応は、今回の勧告プロセスで何か重大な問題が発生している可能性を示唆している。
- 労組は少なくとも13.50ユーロに引き上げられるべきだったと主張。
【筆者解説】 - ドイツ連銀の直近経済予測におけるCPIと一人当たり賃金の予想は以下の通り:
2023年 2024年 2025年
CPI +6.0% +3.1% +2.7%
賃金 +6.0% +5.2% +4.1% - 今回の最低賃金案:2024年+3.4%、2025年+3.3%はCPIを上回り、購買力維持を配慮したレベルではあるものの、賃金全体の伸びには大きく見劣りする内容。
- 足元の賃金交渉は(ストライキなどを経て)今後2年間、年あたり+5%超の妥結となっているものが多い。従って経営者側としては今後2年間+3%強の賃上げで収まるなら御の字。
- 一方、労組としては最も手厚くすべき低所得者層に対する賃上げとしては全然物足りない。
- ドイツ政府としては、最近ドイツ経済の悪化(ひいては産業立地としての危機)に強く配慮する必要に迫られており、今回の最低賃金案を低めに誘導したのではないかと推察される。
<オンライン世論調査Civey>
明らかに少なすぎる:49.9%、が最多の意見となっており、どちらかというと少なすぎる:12.1%と併せると、ドイツ市民の過半数が明確に「今回の最低賃金引き上げは小さすぎる」と感じている模様。
<ドイツ景況感悪化関連投稿>
①ルクセンブルク、②ドイツ、③ベルギー、④オランダ、⑤アイルランド、⑥フランス(イタリア、スウェーデン、デンマークなど、そもそも最低賃金がない国も多ある)。
<関連投稿>
<日本語報道例>