日独経済日記

日独間の架け橋となることを目指しています

20220605 来週(6/9)のECBではインフレ予測部分に注目

ドイツCPI(ドイツ国内基準、ECBが見ているHICPとはややずれる)の5月速報は
前月比+0.9%/前年同月比+7.9%(HICPでは+1.1%/+8.7%)
とまたしても市場予想を上回る上昇だったわけですが、「さすがにこんなハイペースでの上昇がいつまでも続くわけはなく、そろそろピークアウトするだろう」という淡い期待がまだ残っているものと思われます。しかし、そのような期待は直近半年以上にわたってことごとく裏切られてきました。

確かに足元のような前月比+1%の上昇(下図)はそう簡単には続かないかもしれません。しかしインフレが年+2%くらいに落ち着くためには、前月比の上昇率が安定的に+0.2%を切ってくる必要があります。

ドイツ(および欧州)の統計は季節調整が効きにくいので、本来は前年比を重視すべきなのですが、CPIについては当面前月比をしっかり見ていきましょう。

Germany Inflation Rate MoM - May 2022 Data - 1950-2021 Historical - June Forecast (tradingeconomics.com)

 

ドイツのCPI(ユーロ圏の28%)の中で8.5%のウェート(ユーロ圏内では2.4%)を占める食品価格は

2月+5.3%⇒3月+6.2%⇒4月+8.6%⇒5月+11.1%

と着実に切り上がってきていますが、ドイツでの各種報道によると、川上のコスト上昇分のまだ半分も転嫁できていない、ということのようですので、この上昇はまだしばらく続くと見ておくべきと思います。

 

これに加えて気がかりなのが、先日もご紹介したドイツの賃金動向です。日本と異なり、ドイツの賃金はインフレをやや上回る水準で上昇するのが当たり前となっていますが、労組は最近の購買力喪失(インフレを下回る賃金上昇)を大問題と捉えており、労働市場が極めてタイトなこともあり、今後の賃上げ交渉ではこれまでにないくらいの強硬路線で打って出てくる見込みです。

<ドイツ労働コストインデックス>~着実に上昇もインフレを大きく下回る

20220530 ドイツでも賃金・物価スパイラル不可避の情勢 - 日独経済日記 (hatenablog.com)

 

ドイツのインフレは、「足元の8%くらいでピークアウトし、来年の夏頃には2%くらいに落ちて来る」という見方がエコノミストのコンセンサスになっています。
6~8月の期間限定で断行されている①ガソリン減税(▲10%程度)と②9ユーロ切符(たった月9ユーロで全国の鈍行電車乗り放題)は、合わせ技でドイツのCPIを▲0.4%程度(ユーロ圏で▲0.1%程度)押し下げてくれそうですが、9月には確実にその反動が出ます。

ユーロ圏全体のHICPで見ると、少なくとも現時点では総合・コアともにピークアウトの兆しはなく、仮にエネルギーの上昇が止まったとしても、ドイツ同様に、短期的には食品、中長期的には賃金からの上昇圧力が続くので、そう簡単に2%にまでは下がらない、という覚悟が必要と思います。

 


来週6月9日(木)のECB理事会では、四半期ごとのスタッフプロジェクションのインフレ部分に注目です。前回(3月)は下図のようなプロジェクションになっていましたが、ユーロ圏HICPの実績は、4月+7.4%、5月+8.1%ですので既に2%程度上振れ(読み違え)てしまっています。

今回も来年に向けて2%に急低下する予測になる(今年のベースが高い分、なおさら来年分は低く見えやすい)と思いますが、どのような修正になっているかに注目です。

 その際、どれくらいの3ヶ月物EURIBORをその計算の前提としているかについても併せて確認しましょう。

https://www.ecb.europa.eu/pub/pdf/other/ecb.projections202203_ecbstaff~44f998dfd7.en.pdf