ショルツ首相の独仏伊合同電撃キエフ訪問(6/16)をきっかけに、ロシアのドイツ向けガス供給(紫棒線の高さ)が6割減となっています。
そのため、ドイツ政府が画策していた冬場に向けてガス備蓄を増やし(キャパの9割)て今年の冬を凌ぐという戦略がワークしそうになくなってきています。
そこでドイツ政府はガスを産業(特に化学、ガラス、鉄鋼用)と家庭(暖房用)に回せるようにするためにガス発電(全発電量の16%を占める)を石炭(や再エネ)発電で代替しようと動き始めましたが、もともと石炭発電はCO2排出が大きいため、2030年の全廃を目指していたものであり、だからこそロシアからガスをどんどん輸入して発電に回していたという経緯があります。
現時点で全発電量の約30%を占める石炭発電を4割超にまで増やすというのは、カーボンニュートラルに大きく逆行します。
そこでCDU/CSU、FDP、著名エコノミストの多くが国益のために原発全面廃止(今年末最後の3基を止めることになっている)の先送りを強く提案しています(一方SPD、Greenは大反対)。この3基の原発は足元の電力の6%を担っており、停止するガス発電の約1/3を補うことが可能です。
これまでドイツ政府は核廃棄物の最終処理や、戦争/災害時のリスクが大きすぎるので原子力発電からは今年限りで永遠に縁を切るという意思が非常に固かったのですが、今後動きがあるかもしれませんので注目しています。
<主な論点>
先送り反対派 先送り支持派
燃料棒 調達に1年以上かかるので間に合わない 米国やオーストラリアから
半年程度で入手可能
人材 当初計画に従って解雇、再就職アレンジ済 努力すれば何とかなる
法制 当初計画に従ってアレンジ済 努力すれば変更可能
ちなみに欧州天然ガス価格は、ロシアが供給を絞って以来、高止まっています。
ドイツの対ロシア貿易を見ると、輸出(青線)は経済制裁のため確かに激減しているのですが、輸入(赤線)は数量の減少を価格の上昇が補って余りあるため、金額ベースではむしろ増えてしまっています。
【本件関連日本語報道例】