日独経済日記

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20230122 レオパルト問題論点整理

stern - ePaper;

 

ドイツには下添リンク(テーマ:「重戦車提供を政府はなぜ渋るのか」)のような高品質の公開ライブディスカッション番組がたくさんあり、この上なく勉強になりますし、こういった理路整然とした議論を整斉とかつ冷静に展開する能力こそ、我々日本人に最も欠けているものだと痛感します。

Pistorius und die Panzer-Frage: Warum zögert die Bundesregierung? - Sendungen - Presseclub - Das Erste

 

当該番組と、その他のドイツで見聞きできる各種議論を踏まえ上で論点を私なりに整理すると以下のようになります。

 

  • ウクライナを心の底からは信用していない人たちが結構いて、
    ウクライナは今後も際限なく武器(レオパルトの次はドローンや戦闘機)とカネをねだりに来る
    ウクライナはクリミア(下手すればモスクワ)まで攻め込んで最後はNATOを巻き添えにするつもり
    と恐れている(この懸念が正しい可能性は確かに否定しきれない)。
  • 根っからの平和主義者(SPD、Linke)は、ヒトラーソ連に攻め込んだ過ちを繰り返すべきでないので、武器ではなくとになく交渉で何とかすべき(外交努力を安易に放棄しているようにしか見えない)と主張している。
  • しかし、プーチンに最も近いはずのマクロンがどんなに努力しても外交はまったく手応えがない。
  • 交渉の入り口にたどり着くまで、どのような状況が必要なのかが現時点で見通せないことも問題を複雑にしている。仮に去年の2/23時点の状況に戻したとしても、ロシア(戦果がゼロになる)、ウクライナ(クリミアまで奪還したい)とも折れる気配がない。
  • 目指すべき目標が明確に定められないことは悩ましいが、その目標が決まるまで手をこまねいていていいわけがない。
  • 間違ってもウクライナがロシアに制圧されたりすることがないよう、必要なだけ武器(特にどんどんなくなる弾薬)と資金で支援し続ける以外、現実的選択肢はない。
  • ドイツ国民の世論はレオパルト提供ではちょうど真っ二つに割れている。若者と旧東独で特に反対が根強い。
  • ショルツ首相はレオパルト提供反対の理由をまったく説明しようとしていない。この不透明さが各方面の疑念と不満を生んでおり、最大の問題。
  • 米国(自分で種をまいた欧州の問題なのに自力で解決しようとしていない)とウクライナ(論拠の薄い言い訳ばかり聞かされている)は、ドイツのこの煮え切らない態度にかなり怒っている。
  • NATO内にレオパルト提供賛成国はたくさんあり「ドイツ単独で判断するわけにいかない」というお決まりの言い訳は、もはや空虚にしか聞こえない。
  • 但し、ポーランドの「ドイツの許可抜きでも自国にあるレオパルトを提供する」というスタンスの背景には、次は自国が戦場になりかねないという危機感と選挙対策(今年11月下院選)という(やや身勝手な)特殊事情がある。
  • 他のNATO諸国もエスカレーションでNATOが巻き込まれるリスクを相応に心配しており、過半数が明確にレオパルト提供支持というわけでもない。
  • 推察するしかないが、ショルツ首相が決断を渋っているのは以下の3つのせいではないかと思われる:
    レオパルト提供をきっかけにNATOが戦争に巻き込まれてしまうリスクが、一般に思われているよりかなり高いと判断している(そういう材料を隠し持っている)。
    歴史的観点から、ロシア相手の戦争を再びドイツが先導することに躊躇している。
    国民の過半数からの明確な支持がない
  • NATOの直接参戦(ウクライナ内でのウクライナ兵訓練も含む)がドイツとしてはレッドライン。武器の質(攻撃性)の問題ではない。

 

【追記】あるドイツ人コメンテーターの辛辣な解説「なぜ重戦車出せないか」

  1. ドイツ国民全体が完全に平和ボケしている
  2. ドイツ自衛隊自身がガタガタで支援どころじゃない
  3. ウクライナから要求される武器がどんどんエスカレートしている
  4. ロシアがそろそろ支援物資(武器、弾薬)の根元(NATO)を攻撃し始めかねない
  5. これまでの軽めの武器と違って、政治的に一致団結した決断にならない
  6. できるだけ戦争の責任をとらず、米の陰にかくれていたい
  7. 米国だって態度をいつどう変えるかわからないし、落としどころが見えているわけでもない

 

 

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