日独経済日記

日独間の架け橋となることを目指しています

20240327 ドイツ鉄道労使交渉決着についてのドイツメディアの報道ぶり

これまで5か月間にわたる交渉と計6回のストライキを経て、昨日3月26日、ドイツ鉄道とGDL(運転手組合)の労使交渉がようやく決着し、イースター休暇中のストライキ回避が確実になりました。GDLは大幅な賃上げ(免税一時金を含む)と週35時間労働に向けての段階的時短(詳細については下添一覧表ご参照)を勝ち取り、ドイツ鉄道は収益性と人繰りの確保に苦労することになります。本件についてのドイツメディアの報道ぶりは以下の通りです。

  • GDLは2029年からの週35時間労働の実現を歴史的成果として自賛しているが、その評価については意見が割れている。
  • 今秋に引退する予定のGDLヴェセルスキー組合長は、最後の闘いでの自らの記念碑として週35時間労働を勝ち取った。
  • ドイツ鉄道経営陣は、GDLの中核的な要求だった時短を「値段がつけられない」「面目が保てない」という理由だけで何か月も拒み続け、結局は屈服した。
  • 長期間にわたる非常に難しい労使交渉だったが、イースター前に何とか妥結できたことは朗報。
  • ifo研のフュースト氏のような一部の経済学者は、本合意を将来のモデルになりうると考えている。
  • 労組組合員や従業員は当然労働時間短縮を歓迎している。
  • しかし企業経営にとってはあまりにも大きな負担であり、国際競争力の低下を通じてドイツ経済全体の繁栄を脅かしかねない一大事である。
  • 近年の人口動態とそれに起因する熟練労働者不足を考慮すると、既に世界トップクラスで短いドイツの労働時間をさらに減らしてもよいかどうかについて社会全体で議論する必要がある。
  • 労働時間や仕事をとにかく減らしさえすれば幸せになれるという誤った考えは改めなければならない。
  • 少子高齢化が劇的に進行する社会において、賃金を減らすことなく週労働時間だけ縮め続けるのは無謀である。
  • それを望む人は、移民受入や機械化などの具体的対案を示さなければならない。
  • インフラや公共サービスといった国家の重要機能を、労組がかくも簡単にマヒさせていいかどうかについても議論が必要だ(但し、雇用主側が一方的に有利になるような仕組みになってもいけない)。
  • 鉄道顧客の関心は、手頃な価格で、時間を厳守し、環境に優しい電車で旅行できることだけだが、本契約後にその方向に向かって前進できるかはなはだ疑問。
  • 本契約によって激増する労務コストは、最終的には鉄道利用者と納税者が負担させられてしまう。
  • ヴェセルスキー氏の後継者も、GDLのライバルであるEVG(鉄道運転士以外の大半がこちらに所属)に負けたくないという理由で、今後も強硬路線を堅持しそう。
  •  一方EVGとドイツ鉄道との間の労働協約は1年後に期限を迎える。EVGがライバルのGDLの条件を上回ろうとしてストライキが頻発する可能性も高い。
  • 本協約の恩恵を受けられない残り9割強のドイツ鉄道従業員(EVGでの協約が適用される)は不満を募らせ、ドイツ鉄道社内の動揺は収まらないだろう。

 

<週労働時間の段階的引き下げ>~従業員が選択できる。長時間労働を選択するほど時給が上昇するというインセンティブ付き。ドイツ鉄道は実施をかなり先送りすることにより、人材確保や機械化などの対応のための時間を買った格好。


★主なドイツ賃金交渉一覧

<近年の決着分>

<今後の予定>

 

●マクロベースでの一人当たり賃金上昇イメージ~今年/来年と3%台、リスクは上振れ

 

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