日独経済日記

日独間の架け橋となることを目指しています

20211120 日系企業がEU市場で抱える経営課題

PwC Japanが今年8月に実施した、日本企業のグローバル戦略についての調査結果によると、日系企業の欧州市場における経営課題は重要な順に、①市場・競合環境の理解、②デジタル対応人材の確保・育成、③不正や横領の抑止、④買収後のPMI(M&Aの効果を最大化するための統合プロセス)、⑤各国法制変化への対応、となっています。順位はともかく、いずれも日々現場で実際に目にしているものばかりで、全く違和感ありません。

EUは人、モノ、資本、サービスが自由に移動できる巨大単一市場(人口、GDPとも日本の3倍強)ということになっていますが、28もの国の集合体なので、実際には国毎の言語、文化/商慣習、法制の違いが厳然として存在し、米国市場や中国市場とは明らかに異なる手強さを内包しています。外国語習得や異文化交流があまり得意とは言えない日本人にとってはコスト高/非効率に陥りやすく、EUは厳しい市場になりがちです。上記5つの課題は、いずれもEUの多様性を相手に苦戦している日本人の苦悩を浮き彫りにしているように思います。

とはいえ、そもそも課題というものは、その解決が自動的に大きな前進をもたらすのりしろを意味します。日本もドイツも新政権下で、コロナ克服、デジタル革命、気候変動対応、という巨大な課題に挑むべくトランスフォーメーションに取り組んでゆくことになりますが、人類の英知が発揮されて最終的にはきっと「何とかなる」と思います。日本企業の上記5つの課題も、これらの巨大な課題と比べれば小さなものであり、きっと「何とかなる」と思います。人生100年時代の後半戦をドイツで実りあるものにしたいと考えている私としては、語学力を磨き、欧州文化の理解を深め、日々情報収集と勉強に励むことを通じてこれらの「何とかなる」に少しでも貢献したいと思っています。

 

【独訳】

Nach den Ergebnissen einer von PwC Japan im August dieses Jahres durchgeführten Umfrage zu den globalen Strategien japanischer Unternehmen sind die wichtigsten Managementfragen für japanische Unternehmen auf dem europäischen Markt (in der Reihenfolge ihrer Bedeutung): (1) Verständnis des Markt- und Wettbewerbsumfelds, (2) Sicherung und Entwicklung digitaler Humanressourcen, (3) Kampf gegen Betrug und Veruntreuung, (4) PMI (Post-Akquisitions-Integrationsprozess zur Maximierung der Vorteile von Fusionen und Übernahmen) und (5) Reaktion auf Änderungen der Gesetze und Vorschriften in den einzelnen Ländern. Unabhängig von der Rangliste sind dies alles Dinge, die ich tagtäglich beobachte, daher stimme ich ihnen voll und ganz zu.

Die EU soll ein riesiger Binnenmarkt sein (mehr als dreimal so groß wie Japan in Bezug auf Bevölkerung und BIP), in dem sich Menschen, Waren, Kapital und Dienstleistungen frei bewegen können, aber in Wirklichkeit ist sie eine Ansammlung von 28 Ländern mit jeweils eigener Sprache, Kultur, Geschäftspraktiken und Rechtssystemen. Für Japaner, die nicht sehr gut darin sind, Fremdsprachen zu lernen und mit anderen Kulturen zu interagieren, ist die EU ein schwieriger Markt, da er mit hohen Kosten und Ineffizienzen behaftet ist. Die oben genannten fünf Herausforderungen scheinen alle die Schwierigkeiten japanischer Geschäftsleute zu verdeutlichen, die sich mit der Vielfalt der EU auseinandersetzen müssen.

Dennoch sind die Herausforderungen in erster Linie als Hindernisse zu verstehen, deren Überwindung automatisch zu bedeutenden Fortschritten führen wird. Sowohl Japan als auch Deutschland werden unter den neuen Regierungen an der Transformation arbeiten, um die großen Herausforderungen der Überwindung von Corona, der digitalen Revolution und des Klimawandels zu bewältigen. Ich glaube, dass die Weisheit der Menschheit uns am Ende in die Lage versetzen wird, sie zu "bewältigen". Die fünf oben genannten Probleme japanischer Unternehmen sind im Vergleich zu diesen riesigen Herausforderungen klein, und ich glaube, dass sie am Ende "bewältigt" werden können. Da ich hoffe, die zweite Hälfte meines 100-jährigen Lebens in Deutschland zu einem fruchtbaren Leben zu machen, möchte ich dazu beitragen, dass diese Probleme "bewältigt" werden können, wenn auch nur ein wenig, indem ich meine Sprachkenntnisse verbessere, mein Verständnis der europäischen Kultur vertiefe und hart daran arbeite, täglich relevante Informationen zu sammeln und zu studieren.

 

【英訳】

According to the results of a survey on global strategies of Japanese companies conducted by PwC Japan in August this year, the most important management issues for Japanese companies in the European market are, in order of importance: (1) understanding the market and competitive environment, (2) securing and developing digitally-enabled human resources, (3) curbing fraud and embezzlement, (4) PMI (post-acquisition integration process to maximize the benefits of M&A), and (5) responding to changes in laws and regulations in each country. Regardless of the rankings, all of these are things that I actually observe on a daily basis, so I completely agree with them.

The EU is supposed to be a huge single market (more than three times the size of Japan in terms of population and GDP) where people, goods, capital, and services can move freely, but in reality it is a collection of 28 countries, each with its own language, culture, business practices, and legal systems. For Japanese people, who are not very good at learning foreign languages and interacting with different cultures, the EU tends to be a difficult market because it is prone to high costs and inefficiencies. The above five challenges all seem to highlight the struggles of Japanese business people who are struggling to deal with the diversity of the EU.

Nevertheless, in the first place, challenges are meant to be obstacles whose resolution will automatically lead to significant progress. Both Japan and Germany, under the new governments, will be working on transformation to tackle the huge challenges of overcoming Corona, digital revolution, and climate change. I believe that the wisdom of mankind will enable us to "manage" them in the end. The five issues mentioned above for Japanese companies are small compared to these huge challenges, and I believe that they will be "managed" in the end. As I hope to make the second half of my 100-year life in Germany a fruitful one, I would like to contribute to making these issues "manageable", even if only a little, by improving my language skills, deepening my understanding of European culture, and working hard to collect and study relevant information on a daily basis.

 

20211119 ドイツで新たに導入される「職場の3Gルール」概要

現時点では法案が下院を通っただけ(本日上院で議決、かつ12月9日には見直し予定)で、具体的な運用のイメージまで明確になっていませんが、今回新たに導入される

「職場の3Gルール(3G am Arbeitsplatz)」

~ワクチン接種済(geimpft)、治癒済(genesen)、当日検査陰性確認済(getestet)、
    のいずれかでなければ
職場に立ち入ることができない~ 

のポイントは以下4点です。

  • 社員の3Gステータスを会社が確認できるようにする(ドイツでは個人情報保護が非常に厳しく、健康状態や病気について会社が確認することは許されていないが、コロナについては例外になる)
  • 3Gルールの順守状況は会社が毎日確認し記録しなければならない
  • 会社は週2回以上、検査機会を提供しなければならない
  • 業務に支障ない限り、極力在宅勤務(Homeoffice)とする

昨日の決定事項についての政府プレスリリースはこちらです(ドイツ語)。電車・バス・飛行機でも同様の3Gルールが適用されます。

2021-11-18-mpk-data.pdf (bundesregierung.de)

 

なお、一足先に職場への3Gルール適用を始めているオーストリアの例がこちらに紹介されています。(例:移行期間2週間、ワクチンの有効期間は2回目から360日(J&Jの場合は270日)、治癒済は180日、陰性証明のチェックは必ずしも入り口でなくても全数でなくてもいい、などなど)

checkliste-3-g-arbeitsplatz.pdf (wkv-media.at)

ドイツでも似たような実運用になるのではないかと推察しています。

20211118 ドイツCDU自分探しの旅 前途多難

CDU党首選は以下3者の争いとなることが確定しました。
若手再有望株のシュパ-ン保健相は、最後までコロナ対策に注力したいということで、辞退しました。

メルツ元院内総務(66):経済・財政専門家、党内右派 
レトゲン環境相(56):外交専門家、党内中道派 
ブラウン官房長官(49):医療専門家、メルケルのブレーン(やや左寄り)

 

左から、②レトゲン、①メルツ、③ブラウン

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いずれも党内エスタブリッシュメント(重鎮かつ高齢の男性)であり、1回目では誰も過半数を得られず、恐らくメルツとレトゲンの決選投票となり、6-4くらいでメルツが勝利する、という感じの展開になるのではないかと思われます。ただし、メルツとレトゲンの党員内支持率は足元ほぼ互角の模様です。

 

最有力候補(ただしこれまで2回連続で惜敗中)のメルツ氏は若手男女ペアを正副幹事長(副幹事長ポスト新設には党則改正が必要)に指名し、右傾化などしないと宣言して中道勢力の取り込みを図ろうとしていますが、党内左寄りの人たちはレトゲンかブラウンを選びそうです。

 

今後のスケジュ-ルは以下の通りです。

11/6-11/17  立候補者募集 <現時点でここまで完了>
11/18-12/2     選挙戦
12/4-12/16  1回目投票(過半数確保者が出ればここで決まりだが可能性は低い)
12/28-1/13  2回目投票 
1/14     結果発表 <実質的にはこのタイミングで決定>
1/21-1/22  党大会(ハノ-ファ-)で上記結果に基づく形式的党首選出手続

 

上記3人のうち誰が次期CDU党首になるにせよ、以下が中長期的懸念事項となります。

  • 40万人の党員投票でのガチンコ勝負で党首を選ぶため、党内の融和はさらに難しくなる可能性が高い
  • 誰もメルケル後の新たな魅力的なCDUのビジョンを提示できておらず、4年後の政権奪回への道筋が全く見えてこない
  • 他党比女性活躍で見劣りする状態がなかなか解消しない
  • CDUがメルツ氏の下で右傾化した場合、党外からの支持を増やすのは難しそう
    (極右AfDは10%程度のコア支持者を固めており、切り崩しが難しい)
    また、信号機連立政権との建設的協力がより困難になる可能性がある

舞台裏での必死の調整を経た結果、新味のある男女混成若手チ-ムがひと組だけ出てきて、党員信任投票で高率の支持を得る、というのがラシェット現党首の思い描いた理想系だったのですが、全く違った展開となっています。

マスコミからは「CDUは自分探しで苦戦中」、「党再生の道筋はいつまでたっても全く見えてこない」と揶揄されています。

実際に世論調査の政党別支持率でも改善/巻き返しの兆しがあまり見られません。

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Wahlumfragen zur Bundestagswahl – Sonntagsfrage (Wahlumfrage, Umfragen) (wahlrecht.de)

20211117 ドイツ金融当局、10の中期目標

ドイツの金融監督当局であるBaFin(ドイツ連邦金融監督庁)は2022年から2025年までの4年間の当局指針として以下10項目を発表しました(まだ英語にはなってません)。

BaFin - Mittelfristziele

  1. 安定性と安全性:監督対象企業と金融システムをシナリオに基づき徹底分析
  2. 業務の強靭性サイバー攻撃に対する耐性やリスクプロファイルの変化に注目
  3. 問題企業:深刻な問題となりかねない企業の早期発見
  4. マネーロンダリング防止EUレベルの協働強化
  5. 消費者保護SNSなどを活用しての啓蒙、取り締まり強化
  6. 市場監督:監督対象企業のバランスシート徹底チェック、監督責任一元化
  7. 持続性:持続性関連リスク管理、ディスクロ、グリーンウォッシング抑止
  8. イノベーション:新技術の理解・分析と監督業務への反映
  9. 近代化と果敢さ:デジタル化や働き方改革で迅速なアクション
  10. 人材育成:高度専門人材にとって魅力的な職場を目指す


ワイヤーカード問題(多くの兆候があったにもかかわらず、結果的に粉飾を見逃した)の反省と教訓をかなり意識した内容となっています(例えば3,6,9,10など)。

 

なお、BaFinの英語HPやWIKIの説明はこちらです:

BaFin - Homepage

Federal Financial Supervisory Authority - Wikipedia

20211116 ドイツの医療キャパのチェック方法

今くらいコロナの状況が悪化してきますと、自分や家族、会社の同僚が万一コロナで重い症状が出た場合に、地元の病院で受け入れられてしっかり治療してもらえるかどうかはリスク管理上非常に重要なポイントです。

 

医療キャパに関して、ドイツ全体や州毎のマクロ感はこちらでつかめます。

DIVI Intensivregister

グラフはコロナ重症患者数の推移を示すものです。

左の全独ではまだ昨冬のピークに達していませんが、右のバイエルン州ではほぼピークに到達してしまっています。

 

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このような状況を踏まえて、バイエルン州の州都であるミュンヘン市は、本日クリスマス市の中止を決断しました。

 

市町村毎の状況まで細かく確認する必要がある場合にはこちらを使います。

Dashboard DIVI-Intensivregister Germany | COVID-19 Datenhub (arcgis.com)

右上のプルダウンで州と市町村を選択します。

ミュンヘン市など大きな都市を選ぶ際には頭にSK(Stadtkreis)をつけて検索してください。

 

以下のミュンヘン市の場合、現時点で重症病床総数537に対して497が占有済、空き病床は40、111人がコロナ患者でその約半分の60人が人口呼吸器対応(より重症)となっています。

空いている重症病床数が全体の10%以下ということで危険信号の赤旗が出ています。

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デュッセルドルフもタイトで赤旗が出ています。空き病床はあと25(300-275)しか残っていません。
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20211115 EU観光宿泊は8月にコロナ前の8割程度にまで戻しましたが、反落要注意です

 

EUの観光施設宿泊数を見ると、8月にはコロナ前の▲2割程度まで戻せていたようです。しかし、去年同様冬場に向けてコロナ感染が急拡大しているので、また▲8割くらいまで再び凹んでしまうかもしれません。

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 6-8月の3ヶ月で見ると、EUはコロナ前(2019年)比▲3割程度で、ドイツ(中央)の▲2割はマシな方のようです。

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Signs of recovery of the tourism sector in summer 2021 - Products Eurostat News - Eurostat (europa.eu)

 

なお、EU、ユーロ圏、個別国それぞれにおける主要指標のコロナ前後の走りがこちらでビジュアルに確認できます。

https://ec.europa.eu/eurostat/cache/recovery-dashboard/?indicator=DB15&countries=EU

20211114 ドイツの職場に新たに導入されそうなコロナ対応

ドイツのコロナ感染が加速度的に急増しており、医療キャパにも不安が持たれ始めています。

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本日版のビルト紙日曜版は、一面真ん中に大きな文字で以下のように
「ホームオフィス義務化を信号機3党が計画!」と報じています。

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このビルト紙(本日のは日曜特別版)は、タブロイド紙ながら発行部数1.4百万部を誇るドイツ最大の日刊新聞で、ドイツ一般市民に絶大な影響力をもっています。ドイツの政治家は必ず目を通していると言われています。

本件は来週木曜日の連邦議会採決を目指して、法案作成側(SPD:ハイル労働相)が国民の反応を見るための観測気球として出してきたものと思われます。当該法案は、信号機連立構成政党(SPD、Green、FDP)の議員の間で揉まれている段階ですが、経済重視のFDPがやや難色を示しており、信号機内でもまだ調整がついていない模様です。

法案のポイントは以下の通りです:

  • 職場において3Gルール(ワクチン接種者、治癒済者、テスト陰性者のみ出社可能)を導入する <こちらはもともと報じられていた内容>
  • ワクチン接種者でも治癒済者でもない者は、オフィスに出社するにあたり、自分で(コストも自己負担か?)24時間以内前に実施したクイックテスト(PCRでなくてよいが市販キットではだめ)で毎日陰性証明を用意しなければならない
  • 特別な事情がないかぎりホームオフィスを義務化する(会社側は環境を提供し、労働者側は受けなければいけない) <今回初めて浮上⇒観測気球>
  • オフィス出社が許される特別な事情
    会社側 :オフィスでないとできない仕事をお願いする
    労働者側:家に場所がない/音がうるさいので家では働けない など
  • (これらの具体的な運用方法の詳細については現時点で不明)